こんにちは。調布そわ内科・整形外科で循環器内科を担当しております、曽和裕之です。
当院の外来には、心疾患や生活習慣病で通院されている患者さんが多くいらっしゃいます。
生活習慣病の治療というと、処方されたお薬を指示通りに内服することが重要であるのはもちろんですが、食事や運動といった生活習慣の見直しも非常に大切です。
お薬の数は、できるだけ少ない方が、経済的な負担の軽減や内服の継続(コンプライアンス)の面でも望ましいと考えられます。そのため、私の外来では食事や運動に関する指導にも力を入れています。
運動については、1日の目標歩数や運動時間の目安をお伝えしていますが、「運動をした方がよいことはわかっているものの、忙しくてなかなか時間が取れない」というお声も少なくありません。
そこで今回は、時間がない方でも日常生活の中で無理なく取り入れることができる運動習慣、『VILPA(ヴィルパ)』についてご紹介したいと思います。
VILPAとは?
VILPAとはvigorous intermittent lifestyle physical activityの略であり、日本語では「高強度の間欠的なライフスタイル身体活動」と訳されます。
すなわち、日常生活に組み込まれた、通常は1~2分程度の短時間で行われる、息が弾むような高強度の身体活動のことを指します。運動としてやっていない、ということがポイントになります。
具体的には、以下のような活動が挙げられます。
- 駅で急いで階段を上る
- バスに乗るために小走りする
- 重い荷物を持って歩く
このような身体活動は、従来は「運動」として十分に評価されてきませんでした。しかし近年、これらの短時間の高強度活動であっても、健康に対して重要な効果を持つことが明らかになってきています。
死亡リスクの低減
VILPAの研究が盛んになってきた背景として、Apple Watchに代表されるような手首装着型の活動量計の普及しや、データ解析技術の進歩が挙げられます。
1日数分間のVILPAが死亡リスクを大幅に低減するという、非常にインパクトのある研究が、2022年に『Nature Medicine』誌に掲載されました。『Nature Medicine』は生物医学分野の研究者であれば誰もが知る、極めて影響力の高い学術誌です。
この研究では、普段まったく運動をしていない約2万5千人の成人(平均年齢61.8歳)を対象に、約7年間にわたり追跡調査が行われました。
その結果、VILPAをまったく行わない群と比較して、1日に合計3回(各回1~2分程度)のVILPAを行う群では、全死亡およびがん関連死亡のリスクが約40%、心血管疾患による死亡リスクが約50%低下していることが示されました。
さらにVILPAの実施量が増えるほど、ほぼ直線的に死亡リスクが低下する傾向も認められました。
これらの結果から、ジムに通うなどの特別な運動習慣がなくても、日常生活の中で短時間のやや強度の高い動きを取り入れることが、生命予後の改善において非常に重要であることが示唆されます。
なぜこんなに効果があるのか?
習慣的な運動はしなくてもいいのか?
短時間でも息が上がるような強度の高い動きを行うことで、
- 心肺機能の向上
- 血管機能の改善
- インスリン抵抗性をはじめとした代謝の改善
といった効果が得られることが知られています。
VILPAにこれほどの効果があると、「習慣的な運動はしなくてもよいのではないか」と考えてしまうかもしれません。
しかし、この研究では、運動習慣のある約6万人についても同様の解析が行われており、同じような傾向が確認されています。運動習慣のある人においても、さらに健康効果を上乗せする可能性が示されています。
重要なのは、「運動できない人でも、日常生活の中で健康効果を得ることができる」という点であり、「運動をしなくてもよい」という意味ではないということです。
他にはどんな研究結果があるの?
VILPAに関する研究は近年盛んに行われていますが、その中でも特に興味深い研究結果を2つ、簡単にご紹介します。
- 総身体活動量とは無関係に、激しい運動の割合が高いほど、8つの慢性疾患および全死因死亡率が低下する
- VILPAによる心血管疾患の予防効果は、女性の方がより顕著である
1 は2026年に『European Heart Journal』誌に掲載された論文で、運動の「量」だけでなく「質」に注目した内容です。この研究では、VILPAのような高強度の身体活動の割合が高いほど、8つの慢性疾患(心血管イベント、心房細動、2型糖尿病、免疫介在性炎症性疾患、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、認知症)および全死因死亡率の低下と関連することが示されました。
2 は2025年に『British Journal of Sports Medicine』誌に掲載された論文の内容です。一般的に女性は、同年齢の男性と比較して心肺持久力が低い傾向があるため、同じ活動でも相対的により高い運動強度となりやすいと考えられています。そのため女性においては、VILPAがより強い刺激となり、特に運動習慣のない場合には、心血管疾患の予防効果がより顕著に現れる可能性が示唆されています。
今日からできる簡単な工夫
短時間の高強度の運動は重要ですが、無理にまとまった運動時間を確保する必要はありません。
例えば、以下のような日常の工夫で十分です:
- エレベーターではなく階段を使う
- 信号が変わりそうなら少し早歩きをする
- 買い物袋を持って意識的にしっかり歩く
このような「やや息が上がる」動きを、1日の中で数回取り入れることが大切です。
まとめ
- 日常の短い動き(VILPA)でも、十分な健康効果が期待できます
- 時間がない方や、運動が苦手な方にとっても、現実的で取り入れやすい方法です
日常生活の中で「少しだけ頑張る」という意識を持つことが大切です。
こうした小さな積み重ねが、将来の健康を大きく変えるかもしれません。








