こんにちは。調布そわ内科・整形外科の循環器内科担当の曽和裕之です。
健康診断で「血圧が高めですね」と言われたり、ご家庭で血圧を測定すると高い値が続いたりすると、多くの方がまず「塩分を控えよう」と考えられるのではないでしょうか。
▽高血圧に関しては以下の記事もご参照ください。
確かに減塩は高血圧治療の基本であり、日本高血圧学会のガイドラインでも、食塩摂取量を1日6g未満にすることが推奨されています。しかし近年では、「塩分を減らすこと」だけではなく、「血圧を下げる食品を積極的に食べること」も同じくらい重要であることが明らかになってきました。
そこで近年、世界中で注目されているのがDASH(ダッシュ)食です。
DASH食は、高血圧の改善を目的として開発された食事療法で、多くの臨床研究によって高い降圧効果が証明されています。その効果は軽症の高血圧であれば降圧薬1剤に匹敵すると報告されており、近年の海外ガイドラインでも、血圧を下げるための最も効果的な食事パターンの一つとして推奨されています。
今回は、DASH食とはどのような食事なのか、なぜ血圧が下がるのか、日本人でも実践できるのかについて、循環器専門医ができるだけわかりやすくご紹介します。
DASH食とは?
DASHとは、「Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を予防・改善するための食事療法)」の略称です。
その特徴は、「○○を食べてはいけない」という厳しい制限ではなく、「体に良い食品を積極的に取り入れる」という考え方にあります。
具体的には、野菜や果物を豊富に摂り、全粒穀物や豆類、ナッツ類、魚、低脂肪乳製品をバランスよく組み合わせる一方で、塩分や飽和脂肪酸、加工食品、甘い飲み物などを控えることが基本となります。
つまり、単なる減塩食ではなく、「栄養バランスの優れた食事パターン」そのものがDASH食なのです。
多くの研究では、DASH食を継続することで収縮期血圧が10mmHg以上低下することが報告されており、血圧が高い方ほどその効果が大きいことが知られています。

DASH食が血圧を下げる理由
「野菜をたくさん食べるだけで、本当に血圧が下がるのでしょうか。」
そう疑問に思われる方も少なくありません。
実は、DASH食の降圧効果は単に塩分を減らしているからではありません。野菜や果物、豆類、全粒穀物、低脂肪乳製品に豊富に含まれるさまざまな栄養素が、お互いに作用し合うことで血圧を下げると考えられています。
その中でも特に重要なのがカリウムです。
カリウムには、体内の余分なナトリウム(塩分)を尿として排泄しやすくする働きがあります。その結果、体内に水分が過剰にたまることを防ぎ、血圧が下がりやすくなります。また、血管を広げる作用や、血圧を上昇させるホルモン(レニン・アンジオテンシン系)の働きを調節する作用もあることが知られています。
近年の研究でも、DASH食の降圧効果にはカリウムの摂取量が深く関係していることが示されており、野菜や果物を積極的に食べることの重要性が改めて注目されています。
さらに、DASH食にはマグネシウムやカルシウムも豊富に含まれています。これらのミネラルは血管をしなやかに保ち、血管内皮機能を改善したり、血管平滑筋をリラックスさせたりすることで、血圧を下げる働きに関与しています。また、インスリンの働きを改善することも報告されており、高血圧だけでなく糖尿病などの生活習慣病予防にも役立つと考えられています。
サプリメントではなく「食事全体」が重要
「それなら、カリウムやマグネシウムのサプリメントを飲めば同じ効果が得られるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現在の研究では、そのような単純な話ではないことがわかっています。
野菜や果物には、カリウムやマグネシウムだけでなく、食物繊維やビタミン、ポリフェノールなど数多くの成分が含まれています。これらの成分が互いに作用し合うことで、血圧を下げたり、血管の炎症や酸化ストレスを抑えたりする効果が生まれると考えられています。
つまり、DASH食は「特定の栄養素」を摂る食事ではなく、「食事全体のバランス」を整えることで健康効果を発揮する食事療法なのです。
そのため、サプリメントに頼るよりも、毎日の食事から野菜や果物、豆類、全粒穀物、低脂肪乳製品などをバランスよく取り入れることが何より大切です。
DASH食は減塩食より優れているのでしょうか?
「減塩だけではだめなのですか?」という質問をいただくことがあります。
結論からいうと、減塩は高血圧治療の基本であり、今後も非常に重要です。しかし、近年の研究では、減塩だけを行うよりも、DASH食を組み合わせた方がさらに高い降圧効果が得られることが明らかになっています。
その理由は、DASH食には減塩以外にも血圧を下げる仕組みが数多く含まれているからです。
カリウムによるナトリウム排泄の促進、マグネシウムやカルシウムによる血管機能の改善、豊富な食物繊維による代謝改善、さらに抗酸化作用や抗炎症作用など、さまざまな働きが組み合わさることで、より大きな降圧効果が得られます。
そのため現在では、「減塩かDASH食か」を選ぶのではなく、「減塩を基本としながらDASH食を取り入れる」ことが、高血圧の食事療法として最も効果的と考えられています。
日本人にもDASH食は向いています
「DASH食は欧米で開発された食事だから、日本人には合わないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、日本人を対象にした研究でも、DASH食は十分に実践可能であり、血圧だけでなく体重や血糖値などの改善にもつながることが報告されています。
実は、日本の伝統的な食事には、DASH食と共通する良い点が数多くあります。魚や大豆製品、野菜を豊富に食べる食文化は、DASH食の考え方ともよく一致しています。
一方で、日本人は世界的にみても塩分摂取量が多いことが課題です。味噌汁や醤油、漬物、加工食品などは知らないうちに塩分が多くなりやすいため、減塩タイプの調味料を活用したり、昆布やかつお節などのだしを上手に利用したりすることで、無理なく塩分を減らすことができます。
また、DASH食では低脂肪乳製品も推奨されています。牛乳でお腹がゴロゴロしやすい方は、ヨーグルトなどの発酵乳製品を取り入れると続けやすいでしょう。
このように、日本食の良い部分を生かしながら少し工夫を加えることで、DASH食は日本人でも十分に実践できる食事療法なのです。

今日から始めるDASH食の実践方法
「DASH食は難しそう」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特別な食品を購入したり、毎日の献立を大きく変えたりする必要はありません。普段の食事を少しずつ見直すことから始めるだけでも十分です。
例えば、野菜は毎食取り入れることを意識し、サラダだけでなく、温野菜や具だくさんのスープなども活用すると無理なく摂取量を増やすことができます。果物はお菓子の代わりに間食として取り入れると、自然にカリウムや食物繊維を補うことができます。
主食は白米だけでなく、玄米や雑穀米、麦ごはんなどを選ぶ機会を増やしてみましょう。全粒穀物には食物繊維やミネラルが豊富に含まれており、血糖値の急激な上昇を抑える効果も期待できます。
たんぱく質は、魚や大豆製品を中心にするとよいでしょう。日本人に馴染みのある焼き魚や冷奴、納豆などは、DASH食にも適した食品です。また、カルシウムやたんぱく質を補うために、低脂肪牛乳やヨーグルトなどの乳製品を毎日取り入れることもおすすめです。
一方で、塩分の多い加工食品やインスタント食品、ハムやソーセージなどは控えめにし、味付けは塩や醤油だけに頼らず、レモンや酢、香辛料、香味野菜、だしなどを活用すると、満足感を保ちながら減塩を続けることができます。
DASH食は「完璧に実践すること」が目的ではありません。毎日の食事を少しずつ改善し、それを長く続けることが最も大切です。
DASH食の1日の食事例
DASH食は特別なメニューではなく、普段の食事を少し工夫することで実践できます。
朝食は、全粒粉パンまたは雑穀ごはんに、プレーンヨーグルトと季節の果物を組み合わせます。さらに、サラダや野菜スープを添えることで、1日のスタートから野菜をしっかり摂ることができます。
昼食は、玄米ごはんに焼き魚や鶏むね肉を組み合わせ、副菜として野菜のおひたしや豆腐料理を加えると栄養バランスが整います。
夕食では、主菜を魚や大豆製品とし、野菜をたっぷり使った煮物や炒め物、きのこや海藻を使った副菜を組み合わせます。味噌汁を飲む場合は減塩味噌を使用し、具だくさんにすることで満足感を高めることができます。
間食には、果物や無塩ナッツがおすすめです。甘いお菓子や清涼飲料水を減らすだけでも、血圧だけでなく体重管理にも役立ちます。
このような食事を毎日続けることで、カリウム、マグネシウム、カルシウム、食物繊維などを自然に摂取することができ、無理なくDASH食を取り入れることができます。
慢性腎臓病の方は注意しましょう
DASH食では野菜や果物を積極的に摂取するため、カリウムの摂取量も増えます。
健康な方ではカリウムは血圧を下げる働きが期待できますが、慢性腎臓病(CKD)の方では、腎機能が低下するとカリウムを十分に排泄できず、高カリウム血症を起こすことがあります。
そのため、慢性腎臓病と診断されている方や、腎機能の低下を指摘されたことがある方は、自己判断で野菜や果物を大幅に増やすのではなく、医師や管理栄養士と相談しながら、ご自身の病状に合わせた食事内容に調整することが大切です。
一方で、腎機能が保たれている方では、必要以上に野菜や果物を制限する必要はありません。最近では、加工食品よりも新鮮な野菜や果物を中心とした食事が、腎臓や心血管の健康にも良い影響を与えることがわかってきています。
DASH食は血圧以外にも多くの健康効果があります
DASH食の魅力は、血圧を下げることだけではありません。
多くの研究では、DASH食を継続することでLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の改善、インスリンの働きの改善、体重管理、さらには心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防にもつながることが報告されています。
これは、DASH食が単に塩分を減らす食事ではなく、野菜や果物に含まれる抗酸化物質や食物繊維、良質なたんぱく質などを豊富に含む「健康的な食事パターン」であるためです。
高血圧だけではなく、脂質異常症や糖尿病、肥満などの生活習慣病を予防・改善したい方にもおすすめできる食事療法といえるでしょう。
DASH食と地中海食の違い
健康的な食事として、DASH食と並んでよく紹介されるのが「地中海食」です。どちらも心臓や血管の健康に良い食事として世界的に推奨されていますが、それぞれ少し特徴が異なります。
DASH食は、高血圧を改善することを目的として開発された食事療法です。そのため、野菜や果物、全粒穀物、豆類、低脂肪乳製品を積極的に取り入れながら、塩分を控えることを重視しています。多くの臨床試験で優れた降圧効果が示されており、「血圧を下げたい」という方には特におすすめできる食事パターンです。
一方、地中海食は、地中海沿岸地域の伝統的な食生活をもとにした食事パターンです。野菜や果物、豆類、全粒穀物、魚を豊富に摂る点はDASH食と共通していますが、オリーブオイルやナッツ類を積極的に取り入れることが大きな特徴です。心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防効果に加え、認知症や糖尿病など幅広い健康効果が期待されています。
実際には、この二つの食事療法は対立するものではありません。どちらも植物性食品を中心とした健康的な食事パターンであり、共通点が数多くあります。
高血圧の改善を最優先に考える場合はDASH食が第一選択になりますが、血圧が安定した後も長く健康的な食生活を続けるという意味では、地中海食の考え方も非常に参考になります。
当院では、高血圧の患者さんにはDASH食の考え方を基本としながら、日本人の食生活に取り入れやすい地中海食の要素も組み合わせることをおすすめしています。例えば、野菜や果物を十分に摂り、魚や大豆製品を積極的に取り入れ、調理にはオリーブオイルを活用しながら減塩を心掛けることで、それぞれの長所を生かした食事を実践することができます。
地中海食については、別の記事でも詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
高血圧の食事療法というと「減塩」が真っ先に思い浮かぶ方が多いかもしれません。しかし、現在では「塩分を減らすこと」と同じくらい、「血圧を下げる食品を積極的に食べること」が重要であることがわかっています。
DASH食は、野菜や果物、全粒穀物、豆類、魚、低脂肪乳製品などをバランスよく取り入れることで、カリウムやマグネシウム、カルシウム、食物繊維などを自然に摂取できる食事療法です。これらの栄養素が互いに働き合うことで、血圧を下げるだけでなく、血管を健康に保ち、心筋梗塞や脳卒中などの予防にもつながります。
また、減塩とDASH食を組み合わせることで、より高い降圧効果が期待できます。日本人の食生活は魚や大豆製品、野菜が豊富である一方、塩分を摂り過ぎやすいという特徴があります。日本食の良い点を生かしながら減塩を心掛けることで、DASH食は無理なく日常生活に取り入れることができます。
血圧が高いと指摘された方はもちろん、ご家族に高血圧の方がいる方や、将来の生活習慣病を予防したい方も、この機会に毎日の食事を見直してみてはいかがでしょうか。
当院では、高血圧の診断・治療だけでなく、食事や運動を含めた生活習慣の改善についても、一人ひとりのライフスタイルに合わせてサポートしております。健康診断で血圧が高いと指摘された方や、ご家庭で血圧が高い状態が続いている方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q.DASH食は降圧薬の代わりになりますか?
軽症の高血圧では、DASH食によって降圧薬1剤に匹敵するほど血圧が下がる場合があります。ただし、高血圧の程度や合併症によっては薬物療法が必要です。自己判断で薬を中止せず、医師と相談しながら食事療法を続けましょう。
Q.DASH食と減塩だけでは、どちらが効果的ですか?
減塩は高血圧治療の基本ですが、現在では減塩にDASH食を組み合わせることで、さらに高い降圧効果が期待できることがわかっています。
Q.日本人でも無理なく続けられますか?
はい。魚や大豆製品、野菜を多く食べる日本食はDASH食と共通する点が多くあります。塩分を少し意識して減らし、低脂肪乳製品や全粒穀物を取り入れることで、無理なく実践できます。
Q.毎日果物を食べても大丈夫ですか?
果物はカリウムや食物繊維が豊富で、DASH食では積極的に取り入れたい食品です。ただし、糖分も含まれるため、食べ過ぎには注意し、ジュースではなく果物そのものを適量食べることをおすすめします。
Q.慢性腎臓病でもDASH食はできますか?
慢性腎臓病ではカリウム制限が必要になる場合があります。そのため、自己判断で始めるのではなく、医師や管理栄養士と相談しながら病状に合わせて調整することが大切です。
Q.どのくらい続けると効果が現れますか?
早い方では2週間程度で血圧の改善がみられることがあります。長期的に続けることで、血圧だけでなく心血管疾患の予防効果も期待できます。
<参考文献>
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- Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH): potential mechanisms of action against risk factors of the metabolic syndrome. Nutr Res Rev. 2020 Jun;33(1):1-18.








