こんにちは。調布そわ内科・整形外科で循環器内科を担当しております、曽和裕之です。
私が執筆した記事が『医学のあゆみ』誌に掲載されました(詳しくはこちら)。
同誌は主に医師向けに書いているため、今回はその内容を一般の方向けにわかりやすく解説しようと思います。
海のプラスチックごみが、あなたの血管にも影響する?
~マイクロプラスチックと動脈硬化の新しい関係~
「海洋プラスチック問題」と聞くと、環境問題を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし近年、このマイクロプラスチックが私たちの体内に入り込み、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患と関係している可能性が報告され、大きな注目を集めています。
今回は、最新の研究をもとに「マイクロプラスチックと動脈硬化」についてわかりやすく解説します。
マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の非常に小さなプラスチック片のことです。
海に流れ出たペットボトルやレジ袋などのプラスチックごみは、紫外線や波の力によって少しずつ細かく砕かれ、目に見えないほど小さな粒子になります。
こうした粒子は海だけでなく、大気や土壌、水道水、食品など、私たちの生活環境のあらゆる場所で見つかっています。

私たちは毎日取り込んでいるかもしれません
マイクロプラスチックは「飲み水」「魚介類」「空気」などを介して、人の体内に入ると考えられています。
最近では、ペットボトル入り飲料水にも多くのマイクロプラスチックが含まれていることが報告されています。
さらに驚くことに、血液、心臓、肺、肝臓、胎盤、母乳など、さまざまなヒトの組織からマイクロプラスチックが検出されることが明らかになっています。
つまり、マイクロプラスチックは環境中だけでなく、私たちの体内にも存在している可能性があるのです。

動脈硬化との関係が注目されています
動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールや炎症細胞が蓄積し、「プラーク」と呼ばれるこぶができ、血管そのものも硬くなる病気です。
このプラークが破れると、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気を引き起こします。
近年の研究では、マイクロプラスチックがこの動脈硬化に関与する可能性が示されるようになりました。
動物実験では、「血管の炎症」「血管内皮障害」「酸化ストレス」「脂質代謝異常」「血栓形成」などを引き起こし、動脈硬化を進める可能性が報告されています。
人でも関連を示す研究が報告されています
2024年には世界的医学雑誌 『New England Journal of Medicine』 に非常に注目される研究が掲載されました。
頸動脈の手術で取り除いた動脈硬化プラークを調べたところ、多くの患者さんのプラーク内からマイクロプラスチックが検出されました。
さらに、プラーク内にマイクロプラスチックが認められた患者さんでは、その後の「心筋梗塞」「脳卒中」「死亡」などのリスクが高かったことが報告されています。
また、急性心筋梗塞の患者さんでは、血液中のマイクロプラスチック濃度が高いという研究結果も発表されています。
ただし、現時点では「マイクロプラスチックが直接病気を起こす」と証明されたわけではありません。
あくまで関連が示唆されている段階であり、今後さらに大規模な研究が必要とされています。
今日からできる対策は?
現時点でマイクロプラスチックを完全に避けることは困難です。
しかし、「不必要な使い捨てプラスチックを減らす」「マイボトルやエコバッグを活用する」「海洋ごみを減らす取り組みに参加する」ことは、環境だけではなく将来の健康にもつながる可能性があります。
また、たとえ環境因子が関係していたとしても、動脈硬化の基本は変わりません。
高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などの危険因子を適切に管理することが、現在もっとも確実な動脈硬化予防です。
調布そわ内科・整形外科では動脈硬化診療に力を入れています
動脈硬化は、自覚症状がほとんどないまま進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞として発症することがあります。
当院では循環器専門医として、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を総合的に管理し、一人ひとりの心血管リスクを評価したうえで治療を行っています。
- 頸動脈超音波検査
- CAVI(血管年齢検査)
- ABI(下肢動脈検査)
上記検査などを用いて、目に見えない動脈硬化を早期に評価し、将来の心筋梗塞や脳卒中の予防につなげています。
検査の詳細は別記事をご参照ください(【動脈硬化の検査について<頸動脈超音波検査、CAVI/ABI>】)
マイクロプラスチックのような新しい環境リスクについても最新の医学的知見を踏まえながら診療を行っていますが、それ以上に重要なのは、現在わかっている危険因子をしっかり管理することです。
「健診でコレステロールや血圧を指摘された」「家族に心筋梗塞や脳卒中になった人がいる」「自分の血管の状態を知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。
未来の心筋梗塞・脳卒中を防ぐためには、症状がない今こそ動脈硬化を評価し、早期に対策を始めることが大切です。
よくある質問(Q&A)
Q. マイクロプラスチックとは何ですか?
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の非常に小さなプラスチック片のことです。ペットボトルやレジ袋などのプラスチック製品が紫外線や波、摩擦などによって細かく砕けることで発生します。
近年では海だけでなく、大気、水道水、食品、土壌など、私たちの生活環境のあらゆる場所で見つかっています。
Q. マイクロプラスチックは人体に入るのでしょうか?
はい。現在では、飲み物や食品、空気などを通して体内へ取り込まれることがわかっています。
研究では、血液、心臓、肺、肝臓、胎盤、母乳などからもマイクロプラスチックが検出されており、私たちは日常生活の中で知らず知らずのうちに曝露している可能性があります。
Q. マイクロプラスチックは動脈硬化の原因になるのでしょうか?
現時点では、「原因である」と証明されたわけではありません。
しかし、近年の研究では、マイクロプラスチックが血管の炎症や酸化ストレス、血管内皮障害などを引き起こし、動脈硬化を進める可能性が示されています。
また、動脈硬化のプラークからマイクロプラスチックが検出され、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントとの関連を示した臨床研究も報告されています。
今後さらに研究が進むことで、その影響がより明らかになることが期待されています。
Q. ペットボトルの水は飲まない方がよいのでしょうか?
近年の研究では、ペットボトル入り飲料水からマイクロプラスチックやナノプラスチックが検出されたことが報告されています。
しかし、「ペットボトルの水を飲むと病気になる」と証明されたわけではありません。
過度に心配する必要はありませんが、環境への配慮という観点からも、マイボトルを活用することは一つの選択肢といえるでしょう。
Q. 魚を食べるとマイクロプラスチックを摂取してしまいますか?
魚介類からマイクロプラスチックを摂取する可能性は指摘されています。
一方で、魚にはEPAやDHAなど心臓や血管の健康に役立つ栄養素が豊富に含まれており、現時点では「魚を控えるべき」とする医学的根拠はありません。
健康のためには、魚をバランスよく食べる食生活を続けることが推奨されます。
Q. マイクロプラスチックを減らす方法はありますか?
完全に避けることは難しいですが、曝露を減らすために次のような工夫が考えられます。
- 使い捨てプラスチック製品を減らす
- マイボトルやエコバッグを利用する
- プラスチックごみを適切に分別・リサイクルする
- 室内をこまめに掃除し、ほこりを減らす
- バランスのよい食生活を心掛ける
これらは環境保全にもつながる取り組みです。
Q. 動脈硬化を防ぐために最も大切なことは何ですか?
マイクロプラスチックは新たな環境リスク因子として注目されていますが、現在もっとも重要なのは、すでに科学的根拠が確立している危険因子をしっかり管理することです。
具体的には、高血圧、脂質異常症(コレステロール)、糖尿病、喫煙、肥満、運動不足などを改善することが、心筋梗塞や脳卒中を予防するうえで最も重要です。
健診で血圧やコレステロールを指摘された方は、症状がなくても一度循環器専門医へ相談することをおすすめします。
Q. 動脈硬化は検査でわかりますか?
はい。動脈硬化は血液検査だけでは十分に評価できない場合があります。
当院では、頸動脈超音波検査、CAVI(血管年齢検査)、ABI(足の血流検査)などを組み合わせ、動脈硬化の進行度を総合的に評価しています。
心筋梗塞や脳卒中は、発症してから治療するよりも、発症する前にリスクを見つけて予防することが何より重要です。
「まだ症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がない今だからこそ検査を受ける」という考え方が、将来の健康につながります。
<参考文献>
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